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椎間板ヘルニアについて
大阪医科大学
整形外科学教室
特務教授 金 明博 先生
椎間板ヘルニアを切除もしくは摘出するのが一般的な方法です。椎間板ヘルニアまでの到達方法として前方法または後方法がありますが、前方法は腹部の臓器が邪魔になり、かつ圧迫をうけている神経組織の確認がしにくいため、現在は後方法が主流となっています。従来からの方法(いわゆるラブ法)では、背中に5-6cmの切開を加え、筋肉を椎弓(ついきゅう)という脊椎の後面から剥離(はくり)し、椎弓間の靭帯を切除し、神経と椎間板ヘルニアを確認し、神経を圧迫しているヘルニアを摘出します。手術の成績は概ね良好であり、9割以上の確率で元の生活に復帰できています。近年は低侵襲手術の進歩により、経皮(けいひ)的髄核摘出術(約5mmの切開)、顕微鏡(3-4 cmの切開)や内視鏡(1-2cmの切開)を使った手術も多くの施設で行われています。低侵襲手術の利点は、皮膚の切開と筋組織の剥離が少ないことにより術後疼痛が少ないことが挙げられます。一方、欠点としては手術手技が難しくなるために手術時間が延長することや、確実性の面でやや劣ることもあります。実際に手術的治療を受けられる場合には、担当の医師からそれぞれの手術方法の利点・欠点と、担当の医師の勧める方法を説明され、十分に理解・納得した上で、手術方法を決定するべきでしょう。
基本的に鍼灸やマッサージ、整体などの漢方や民間療法といわれる行為が、椎間板ヘルニアによる症状、特に下肢の症状に効果があるとは言えません。しかし椎間板ヘルニアが直接関与していない腰痛、たとえば原因が判然としない腰痛(このように脊椎疾患の見当たらない腰痛を非特異的腰痛と呼んでいます)などには効果があるかもしれません。したがってこれらの施設での施術は、実際に短期間のうちに効果が実感できる場合はまだしも、効果が得られないまま漫然と続けることは椎間板ヘルニアに限らず重大な疾患の発見の遅れにつながることもあり、効果がみられない場合には早々に中止し、しかるべき医療機関を受診するべきでしょう。
基本的に鍼灸やマッサージ、整体などの漢方や民間療法といわれる行為が、椎間板ヘルニアによる症状、特に下肢の症状に効果があるとは言えません。しかし椎間板ヘルニアが直接関与していない腰痛、たとえば原因が判然としない腰痛(このように脊椎疾患の見当たらない腰痛を非特異的腰痛と呼んでいます)などには効果があるかもしれません。したがってこれらの施設での施術は、実際に短期間のうちに効果が実感できる場合はまだしも、効果が得られないまま漫然と続けることは椎間板ヘルニアに限らず重大な疾患の発見の遅れにつながることもあり、効果がみられない場合には早々に中止し、しかるべき医療機関を受診するべきでしょう。
椎間板ヘルニアは自然治癒が期待できる疾患です。したがって胃や食道の早期癌などと異なり、早期に手術を行う必要はありません。先に述べた保存的治療をまず試してその効果をみるべきです。医学論文上は保存的治療を行った患者さんのうち、手術にまで至った率は2-5割程度と報告されています。しかし例外はあります。それは症状が痛みに留まらず、下肢の重度の麻痺症状(筋力と知覚の低下)や尿閉や尿失禁などの膀胱・直腸障害を伴った場合です。このような場合は、のちに永久的な障害が残る可能性が高いため、早期の手術的治療が望ましいのです。また手術以外の治療では効果が見られず、治療期間が長くなる場合(目安としては数週間から1ヵ月を超える期間)には手術療法が考慮されます。痛みのために仕事や学業に支障を生じる期間が長くなれば、治療に要する期間に留まらず、患者さんのその後の人生の質が大きく損なわれるからです。私の患者さんの一人は、痛みのために(あくまでも本人と家族の弁ですが・・・)大学受験に失敗し、浪人中に手術を受け、翌年見事に東大(!)合格されました。
結論から言えば低侵襲手術(顕微鏡下椎間板ヘルニア摘出術、内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術など)も従来からの手術方法(いわゆるラブ法)も、手術自体の効果は同じです。
近年、従来法(5-6 cmの皮膚切開)と比較して小さな皮膚切開(内視鏡下は1-2 cm、顕微鏡下は3-4 cm)と皮下組織、筋組織の剥離で椎間板ヘルニアを切除する手術方法が開発されてきました。これには患者さんの術後の痛みを軽減する効果と入院期間を短縮する効果があります。
したがって、できるだけ手術後の痛みを少なくしたい、入院期間を短くしたい患者さんにとってはメリットがある手術方法と 言えます。しかし逆に言えば、術後の痛みは術後数日間の違いであり、入院期間も数日の違いしかありません。
(ちなみに当院での椎間板ヘルニアの入院期間は7-10日間です。手術翌日から歩行は許可しています。最近読んだアメリカの文献ではなんと従来法、低侵襲法とも0.3-0.4日間!の入院期間で、差はありませんでした)。
低侵襲手術は狭い術野での手術となるために手術手技が相対的に難しくなり、個人的な経験上は手術時間が延長するとともに、神経組織を包む硬膜や神経の損傷と再手術の確率が高くなります。両者間の違いは、同じ川を渡るのに大きな橋をかけるか、細い丸太をかけて渡るかの違いとでもいえるでしょう。どの手術方法を選択するにしても、最終的な操作は椎間板ヘルニアを摘出し神経組織の圧迫を解除することであり、術式間の効果の違いは術後数日間の患者さんの術後疼痛の程度、言いかえれば快適性の違いということになります。
私自身は現在、医学論文の報告では内視鏡下手術を代表とする低侵襲手術と従来法との間に手術成績の差が見られないこと、個人的な経験では低侵襲手術の再手術率が高かったこと、自分自身は従来法の手術手技に自信があることなどから、現在は小切開用の開創器と拡大鏡を使用した手術を行っています。ちなみにこの場合の皮膚切開は内視鏡とほぼ同じ2 cmです。
いずれにしても一番大切なことは、患者さん自身が信頼できると判断した医師と手術の適応に関し十分に相談し、手術を行う際には術式に関してはその医師が最も自信のある方法で行ってもらうことです。医療で最も大切なのは安全かつ確実なことであり、術後の一時的な快適性は二の次と考えるべきでしょう。
腰椎椎間板ヘルニアの手術後の患者さんが、再度同じ部位の椎間板ヘルニアに対する手術を受けた場合を再発とすると、手術後5年までの再発率は4-15%程度と言われています。しかし再度症状が出現し画像検査で同じ部位の椎間板ヘルニアが確認された場合でも再手術にまでは至らないことも多く、このような軽症例も再発とするならば、実際の再発率はもう少し高いかもしれません。再発に至った場合でも保存的治療の効果は期待できますし、また再手術は初回手術よりもやや難しくなりますので、再手術の適応は初回手術以上に慎重に行うべきです。
“以上、腰椎椎間板ヘルニアに関し、日常の診療において患者さんから多く寄せられる質問にお答えする形で、私自身の意見も加え説明させていただきました。腰椎椎間板ヘルニアは数多くの腰痛を引き起こす疾患の一つに過ぎません。また同じ腰椎椎間板ヘルニアと診断されても個々の患者さんで状況は異なり、ある意味オーダーメードの診療が必要なのは言うまでもありません。頑固な腰痛や、腰痛のみならず下肢の症状を伴う場合には、まず早めの整形外科受診をお勧めします。”
※ 先生方のご所属・肩書などは、執筆いただいた当時のものです。