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水頭症について
順天堂大学医学部附属順天堂病院
脳神経外科 先任准教授
宮嶋 雅一 先生
水頭症とは、脳脊髄液(髄液)の循環障害によって拡大した脳室が、頭蓋骨内面に大脳半球を押しつけることにより、数々の脳の障害を引き起こす一連の病態を言います。
髄液には脳を外部の衝撃から保護する、脳圧をコントロールする、脳の老廃物の排泄、栄養因子やホルモンの運搬などの様々な役割があると考えられています。この髄液は、脳の中にある脳室と呼ばれる風船のような部屋の脈絡叢(みゃくらくそう)から産生されて、その後脳及び脊髄の表面を循環し、以前は主にくも膜顆粒から吸収されると考えられていましたが、最近は脳や脊髄実質の毛細血管から主に吸収されるとの説が有力です。
この髄液は体の中で一番きれいな液体(99%は水・無菌)で1日に約450mLが産生されます。普通の髄液の総量は大人で約150mL、小児で100mLといわれていますので、この髄液は産生から吸収まで1日に約3回程循環して入れ替わっていることになります。
ところが、この髄液の循環経路において、何かしらの原因で流れが悪くなると、脳室内に髄液が停滞し、脳室が次第に拡大します。拡大した脳室が脳を圧迫することで様々な症状があらわれます。
水頭症を起こす原因として、髄液の生産過剰、髄液循環路の閉塞(へいそく)、髄液の吸収障害などがあり、多くの場合それらを引き起こす病気が存在します。
また、水頭症のタイプとして「非交通性水頭症」と「交通性水頭症」に分類することがあります。脳室の経路で髄液の流れが悪い場合は、「非交通性水頭症」といい、小児に発症することが多く、頭蓋内圧が高くなります。症状としては、頭囲拡大(乳幼児)・頭痛・嘔吐・意識障害などがあり、髄液の通路が先天的に狭窄(きょうさく)している場合や腫瘍等の病変が髄液の流れを妨げる場合に起こります。
脳表のくも膜下腔での髄液の停滞や生産、吸収に問題がある場合は「交通性水頭症」といい、成人・高齢者では、多くは頭蓋内圧は正常範囲にあります。症状は、足が上がらない、小刻みで不安定な歩行、物忘れ及び無気力、尿失禁などが典型です。頭蓋内圧が正常範囲の水頭症を正常圧水頭症と呼び、くも膜下出血や腫瘍、外傷などの後に続いて発症する場合を続発性正常圧水頭症といい、原因が特定できない場合を特発性正常圧水頭症と言います。近年、注目されている高齢者認知症の患者の5%~10%が特発性正常圧水頭症と言われております。
成人に多い交通性水頭症と小児に多い非交通性水頭症に分けて特徴と症状を示します。
髄液の循環を妨げている閉塞部分が脳室内にある場合の水頭症を非交通性水頭症といいます。脳腫瘍などの病変で髄液の循環路がふさがれることによって脳圧が高くなり、頭痛・嘔吐・意識障害などの症状が起こります。これらの症状は急性増悪(きゅうせいぞうあく)することがあるため注意しなければなりません。
これに対して脳室内に閉塞原因を認めない水頭症を「交通性水頭症」といいます。これは脳室拡大がみられるものの頭蓋内圧が正常範囲に保たれていることが多く、歩行障害・認知症・尿失禁などの症状があり、正常圧水頭症と呼ばれています。この正常圧水頭症は、くも膜下出血や頭部外傷など原因のはっきりしている「続発性正常圧水頭症 Secondary Normal Pressure Hydrocephalus:sNPH」と原因のわからない「特発性正常圧水頭症 idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus:iNPH」に分類されます。
sNPHは、くも膜下出血の後1~2ヶ月後において約30%の頻度で起こるため、くも膜下出血後は注意深い経過観察が必要です。iNPHの場合は、歩行障害・認知症・尿失禁といった症状であり、老化による症状と鑑別しづらいため診断が度々困難であり注意する必要があります。
小児水頭症は、脳室内に閉塞が認められる非交通性水頭症が多く、頭蓋内圧が高くなります。図4は正常な頭蓋内圧を示したものです。成人より、乳幼児・小児は頭蓋内圧が低値となっています。
乳幼児の場合、頭蓋骨の縫合が未完成であり、頭蓋内圧の亢進(こうしん)が継続すると頭囲が拡大します。乳幼児以降は頭蓋骨縫合が完成するため頭囲は拡大しません。しかし頭蓋内圧は亢進し、症状として頭痛・嘔吐が出現します。小児ははっきり症状を伝えることができないため、いつもと泣き方が異なる、ぐったりするなどの症状を注意深く観察することが必要です。早期に対応することにより適切な治療を選択でき、正常な機能・発育を保つことが可能です。
図5は各成長期における水頭症の症状と徴候です。
※ 先生方のご所属・肩書などは、執筆いただいた当時のものです。